
日本の運送業界では、ドライバー不足が慢性的な課題となっています。少子高齢化が進む中、若年層の採用難が続き、ベテランドライバーの高齢化も深刻です。こうした状況を打開するために注目されているのが、外国人材の活用と、それを支える「特定技能」制度です。
本記事では、特定技能「自動車運送業」分野の基本情報から、外国免許の切替方法、「特定活動」を活用したスキームまでを徹底解説します。外国人ドライバーの雇用を検討している事業者や、関係者の皆様の参考になれば幸いです。
特定技能ドライバー制度とは?
運送業界における人材不足と特定技能の役割
日本の運送業界では長年、ドライバーの確保が難航しています。そうした背景の中で誕生したのが、外国人材の受け入れを可能にする「特定技能」制度です。
特定技能1号の概要
「特定技能1号」とは、日本語能力および分野ごとの技能評価試験に合格した外国人が、一定の業務に従事できる在留資格です。運送業も2024年より対象分野に追加され、正式に外国人ドライバーを雇用できるようになりました。最長で5年間の在留が可能です。
技能実習制度と異なり、運転業務そのものが可能である点が大きな特徴です。物流・配送現場での即戦力として、大きな期待が寄せられています。
特定技能ドライバーを雇うための前提条件
Gマークまたは働きやすい職場認証の取得
特定技能ドライバーを雇用するには、「特定技能自動車運送業分野協議会」への加入が必要です。その加入条件として、以下のいずれかの認証が求められます。
- Gマーク(安全性優良事業所認定):全国トラック協会が認定。交通安全、法令順守、労務管理等の項目で評価。
- 働きやすい職場認証制度:国土交通省が推進。労働時間、休日、賃金制度、健康管理などが審査対象。
これらの認証を取得していないと、外国人ドライバーの受け入れはできません。
認証申請のタイミングに注意
申請期間は毎年6月~7月で、結果は12月中旬に通知されます。申請の機会は年1回のため、スケジュール管理が重要です。認証取得には準備期間が必要なため、早めの行動が成功の鍵となります。
申請書類の作成は煩雑なため、認証取得に向けた助言や書類作成を行政書士などの専門家に依頼することで、スムーズに認証取得することができます。
採用の流れと特定活動6か月スキームの活用
ステップ1:求人票の作成と登録支援機関との契約
外国人材の採用には、業務内容や労働条件を明記した「求人票」の作成が必要です。また、出入国在留管理庁に登録された「登録支援機関」と契約することで、外国人への生活支援などがスムーズに行えます。
ステップ2:面接・内定
現在、特定技能ドライバー人材は引く手あまたの状況です。他業種で就労中の外国人や技能実習生に対して、あらかじめ面接を実施し、試験合格後の内定を出しておくことが重要です。
ステップ3:試験合格と在留資格変更
採用候補者は、以下の試験に合格する必要があります:
- 学科試験
- 実技試験
- 日本語能力試験N4
試験は日本国内だけでなく、ネパール・インドネシア・ミャンマーなど海外でも実施されています。
ステップ4:特定活動(6か月)で受け入れ → 免許取得 → 特定技能移行
候補者が日本の免許を保有していない場合、一時的に「特定活動(6か月)」で入国し、その間に教習所に通って運転免許を取得する方法があります。
この間は運転業務に従事できませんが、以下の業務は可能です:
- 荷物の仕分け・梱包
- 倉庫作業
- 配送助手業務
免許取得後、正式に「特定技能1号」に在留資格変更を行い、ドライバーとしての乗務が可能になります。
外国免許の切替とその難しさ
外国免許切替の手順
外国人が母国で運転免許を取得している場合、日本での免許への切替が可能です。基本的な手順は以下の通りです。
- JAF等による免許証の日本語翻訳
- 運転免許センターでの申請受付
- 学科試験(母国語で受験可能)
- 技能試験(実車による運転確認)
技能試験の難易度
技能試験は、日本語で実施されるうえ、日本の仮免許と同程度の難易度で、合格率が低い傾向にあります。試験内容には、クランク走行・S字カーブ・一時停止・合図確認などが含まれます。
地域によっては試験予約までに3〜4ヶ月を要するケースもあり、特定活動6か月の期間内にすべてのプロセスを終えることが難しい場合もあります。
大型・二種免許を希望する場合の対応
大型免許の取得手順
母国で大型免許を保有していても、日本でいきなり大型免許へ切替できるわけではありません。
通常は以下の順序で免許を取得します。
- 普通免許 → 準中型 → 中型 → 大型
それぞれのステップでの教習や試験が必要であり、企業側で費用負担制度を用意するケースもあります。
第二種免許(タクシー・バス)の取得支援
第二種免許は、日本で新たに取得しなければなりません。東京では地理試験が廃止され、外国人にも受験しやすくなりました。取得方法には以下の2つがあります。
- 教習所での通学取得
- 一発試験での取得
特にタクシー・バス業界では、外国人向けの取得支援制度を整備することが、企業の競争力向上にもつながります。
特定活動6か月(バス・タクシーは最大1年)のリスク管理
特定活動の制度を活用して外国人を一時的に雇用する際には、以下の点に注意が必要です。
- 活動期間内に免許取得できなければ帰国リスクがある
- 技能試験の予約が混雑しており、受験タイミングに制限がある
- 不合格によって在留資格変更が間に合わない場合もある
特に都道府県によって試験混雑の程度が異なるため、事前に予約可能な教習所や試験センターの確認を行うことが重要です。
在留資格申請の時期も意識しながら、教習スケジュールの調整をしていく必要があります。。
外国人ドライバー受け入れ成功のポイントまとめ
企業が行うべき準備
- Gマーク・職場認証の取得
- 登録支援機関との契約
- 外国免許切替や国内免許取得の支援体制構築
- 特定活動や特定技能の制度理解と社内共有
行政書士が提供できる支援
- 在留資格(特定技能・特定活動)申請支援
- 登録支援機関選定のアドバイス
- 雇用契約書や支援計画の作成・翻訳
- 教習所・免許センターとの調整
まとめ
外国人ドライバーの採用は、運送業界の未来を左右する重要な施策です。一方で、制度の複雑さや行政対応の厳格さを理解せずに進めると、採用の失敗やトラブルに発展する可能性もあります。
適切な情報収集と専門家のサポートを受けながら、外国人材の受け入れ体制を整備することが、持続可能な事業運営につながります。制度を正しく理解し、戦略的に活用していきましょう。